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松江

日本の心を知る

121001114843.jpg一通り松江城見学を終えて、塩見縄手へと向かう。ここも前回の松江の旅で通り過ぎただけ。大きな規模ではないが、整備された城下町の風情が残されていることは印象に残っていた。
ここ松江を語る上で欠かせない一人の文人がいる、小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーンだ。ギリシアのレフガタ島でアイルランド人の父とギリシア人の母との間に生まれる。渡米し新聞記者として活躍した後に来日。最初の赴任地がここ松江であり、松江尋常小学校、尋常師範学校の英語教師として教鞭を執る。松江の士族、小泉セツと結婚し、居を構えたのが、塩見縄手であった。
松江をはじめ出雲の風土や精神性をこよなく愛し、「怪談」や「知られぬ日本の面影」「神々の国の首都」が著されたという。日本の美意識が外国人によって見出されるのは、日本人としてうれしいような、悲しいような・・・
八雲の旧居に入り、すぐに目に飛び込んできたのが文机であった。机の脚が異様に長く、もちろんそれに合わせて椅子も高い。外国人だから上背もあるのは当然と思われるが、八雲の身長は約160cmといわれている。何故、こんなに高い机が必要だったのかは、八雲の視力に関係している。少年時代に左眼を失明し、右眼も視力がとても悪かったようで、顔にこすりつけんばかりに近くでないと書物を読むことも、執筆することもままならなかったのだろう。その姿を想像していると、日本の偉大な板画家、棟方志功の姿が浮かび上がってくる。ドキュメンタリーで映し出されたあの創作活動を重ね合わせてしまうのは旅人だけではないはず。視力というハンデをもろともせず、夢に向かって諦めない強い精神力を心に深く刻む。

潮風に誘われて

121001114906.jpg日本の美意識を海外の方々に称賛されるのは、よくあること。人は何事もなく生活していると、目の前のことが見えなくなってしまう。灯台下暗しなのである。自らも反省の意味を込めて目指すは、岬。灯台である。
今回の松江の旅は、岬のある美保関からスタートしたのだった。ここを最初に選んだのにそれほど深い意味はなく、ただ利用した米子空港からも近いというだけの理由。灯台繋がりになることも、八雲繋がりになることも考えていなかっただけに、改めて旅の発見の醍醐味を味わうことができたわけだ。
121001114923.jpgそれでも唯一、神話というキーワードは持ち合わせていた。出雲神話の歴史に遡ることができる、美保神社があることから、この地を訪れることにしたのだった。
美保神社は島根半島の東に位置し、全国各地にある「ゑびすさま」の総本社。かの七福神でもお馴染みのゑびす顔になりたい。しかも鯛を抱えたあの姿のように、これからの釣り人生に幸あれと祈願するのが目的。だが訪れてみると、興味ひかれるお話と出会う。
美保神社の祭神は、大国主命の長男で事代主神(ことしろぬしのかみ)。対岸に住む女性に会うために毎夜のように通っていたようで、朝の別れは鶏の鳴き声が合図。ある朝、その鶏がいつもより遅く鳴いたものだから、さぁ大変。急いで船に乗ったものの、櫓を海中に落としてしまう大失態。足を櫓代わりに漕いでいたら、因幡の白兎でもお馴染みのワニサメにガブリ。それ以降、地元の方々は鶏を忌み嫌い、卵までに及んだという。
121001114944.jpg八雲は美保関も好んで訪れ宿泊したという。このゑびさまの話を知りながら、旅館の女中に卵を頼むと、「アヒルの卵が少しあります」と返されたエピソードが残されている。もちろん今では鶏卵を食しているわけだが、八雲もなかなかのいたずらっ子である。それよりもゑびすさまの、あの笑顔の意味が分かったということだ。
神様も女性好きであることにホッとしながらも、八雲は日本人の繊細な心、美しき自然よりも日本女性の美しさを挙げていた。自宅に戻り、軽い寝息を立てている家内に向かい日頃の感謝を心の中で発した。

メガネに対する熱き思い 【GLASSES VALLEY】

121001115013.jpg121001115032.jpg今回の旅の一つのテーマとなったリ・スタート。そのきっかけになったのが松江市のGLASSES VALLEY(グラスバレー)だ。すでにフレーム製作工房を構えていたが、より本格的な設備を完備し、市内に2店舗あったショップを統合してこの春にリニューアルオープンした。
グラスバレーといえば山陰地区を代表するセレクトショップとして知られるが、その前身は98年に産声を上げた眼鏡工房OPtMAN。ショップ名からも、ものづくりをイメージさせるが、時にアイウェアカルチャーが花開いた頃で、内外のハウスブランドの取扱いウェイトが高かった。しかし代表の三須恒二さんは、ショップ名に冠された工房への思いは薄れるどころか、より強くなっていく。メガネがファッションアイテムとしての意識が高まる中でも、こんなメガネが欲しいという思い。ショップだけにユーザーのウォンツをダイレクトに肌で感じているからだろう。

121001115050.jpg充実された工房をこの目で確かめるために、移転しリニューアルされた店を目指す。そこは古き良き時代を映す市内の繁華街の一角にあった。ただ外観からは、そこがメガネショップということを連想させるのは、「GLASSES VALLEY」という看板だけ。店内へは螺旋の外階段を上っていくが、左に受付カウンター、そして右に目を移せば、製造機械の一部と完成間近のフロントやテンプルが雑然と並ぶ。
これだけでも工房の雰囲気が漂ってくるが、グラスバレーは紛れもなくショップである。カウンターを通り抜けると、ようやく店内の姿が現れてくるが、窓からは目映いばかりの光が注がれ、しかも風にそよぐ枝垂れ柳も。窓に吸い寄せられるように近づけば、眼下には宍道湖に流れ込む大橋川と、右には宍道湖が見渡せる。こんな絶好なロケーションでメガネ選びができるのは歓迎すべきもの。
無機質な雰囲気から一転、視界が広がる。実はこの建物は以前、病院として運営されていたもの。外観はもちろん店内もできる限りのそのままの姿を残しているだけに、訪れる方にとってはうれしいサプライズというわけだ。入口のカウンターもまさに病院の受付であり、また検査室の入口には「透視中」のサインも。以前、レントゲン室で使われていたスペースであることがうかがえる。

121001115117.jpg121001115137.jpg代表の三須恒二さん。早朝などショップの営業時間以外は、工房で日夜フレーム作りを続けている。自ら営業にも出歩き忙しい日々を過ごしているが、自身も屋上からの宍道湖の景色に癒されるのだとか。
 
ショップブランドでもあるイマチュアの最新作。mod-PASCALのBK/CLとDM/CL。これがシート加工に工夫を凝らしたモデルで、メガネの中のメガネ

店内にも工房の一部を見ることができるが、その本丸は1Fガレージ横に構える。店内の加工室で見かけるタイプとは異にする大がかりなバフに始まり、各種のドリルやプレス、マシニング、バレル研磨まで。威張れるほどの産地工場の取材経験は持たないが、規模こそ違え工房というより、コンパクトな製造工場という顔を覗かせる。果たしてショップが、これほどの設備を有しているところを見た記憶はない。
どちらが本業なのかと考えさせられるが、責任を持ってメガネを作り上げるという視点で捉えれば、もはやその垣根はなくてもいいとさえ思えてくる。ショップだけに、より細かな気配りが製造にも生かされ 完成度を高めるために独自の治具をつくり出すまでに。さらにプラスチックフレームの新たな可能性を求めて、シートに対しても熱き情熱を注ぐ。
積層シートから生まれる多色の味わいは広く知られるところだが、より繊細な色合い、表情をつくり出すため、斜めにシートを貼り合わせたコレクションも注目を集めたのは記憶に新しいところ。さらにそれを進化させ、メガネの中にメガネが入っているような意欲作が登場している。それはコストよりも、自分たちが作りたいもの、それを装い満足するユーザーの姿が投影されているのだろう。immature(イマチュア)というショップブランドとして展開している。

●DATA
GLASSES VALLEY
住所:松江市末次本町39番地
TEL&FAX:0852-32-8553
営業時間:11:00〜20:00

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